この記事について
これはチームや組織が最高のパフォーマンスを発揮するために欠かすことができない7つのステップのうちの六つ目「適切な権限委譲と尊重」です。
- 1. 自身のマインドセットの変革
プレーヤー気質からの脱却と、コーチングマインドの確立 - 2. 透明性と心理的安全性の確保
オープンなコミュニケーションと失敗を恐れない環境づくり - 3. ミッション・ビジョン・バリューの共有
組織の目的と価値観を全員で作り上げる - 4. 目標の連携
組織の目標と個人の目標を結びつける - 5. 失敗の奨励
チャレンジを促し、失敗から学ぶ文化の醸成 - 6. 適切な権限委譲と尊重 ← 今回のテーマ
次世代リーダーの育成と意思決定の尊重 - 7. テクノロジーの積極活用とコラボレーションの促進
最新技術と部門横断の協力で効率と創造性を高める
任せられないリーダーだった話
私は、任せるのがとても下手なリーダーでした。
異動してきたばかりで何も分かっていないにもかかわらず、状況が良くならないのは既存のメンバーや開発プロセスに問題があるのではないかと決めつけ、上から押し付けるようなコミュニケーションをするようになりました。メンバーがやろうとすることに否定的な目線で細かくチェックし、揚げ足を取るようなフィードバック、つまりマイクロマネジメントをすることもありました。
なぜそうなったのか。今になって整理すると、理由は3つあったと思います。
- 自分がやったほうが早い(と思っていた)
- 任せて失敗したら、自分の責任になるのが怖かった
- 「自分が必要とされている感じ」を手放したくなかった
3つ目は、口に出すのが少し恥ずかしいのですが、正直なところだと思います。権限委譲がうまくいかない理由は、多くの場合スキルの問題ではなく、リーダー自身の感情の問題です。だからこそ、その1でお話しした「自己基盤」が先に必要になるのです。
権限委譲は「丸投げ」でも「代行」でもない
権限委譲についてよくある誤解が2つあります。
一つは「丸投げ」です。責任も背景も渡さずに作業だけを渡すと、メンバーは判断の材料がないまま放り出されます。これは委譲ではなく放置です。その2でお話ししたとおり、透明性のない自律は、単なるカオスになります。
もう一つは「代行」です。やり方も手順も細かく指定して、その通りに実行させる。これは委譲ではなく作業の代行で、メンバーの判断力は一切育ちません。しかもリーダーはいつまでも指示を出し続けることになります。
委譲とは、「目的」と「判断の範囲」を渡すことです。何のためにやるのか(目的)と、どこまでは自分で決めていいのか(範囲)。この2つがセットで渡っていれば、メンバーは自分で考えて動けます。
委譲は0か100かではない
任せる/任せないの二択で考えると、リーダーは「まだ早い」という理由でいつまでも渡せません。委譲には段階があると考えると、ぐっと扱いやすくなります。
- リーダーが決めて、伝える
- リーダーが決める前に、意見を聞く
- 一緒に話して決める
- メンバーが決めて、リーダーに相談する
- メンバーが決めて、事後に共有する
- メンバーが決めて、共有も任せる
Management 3.0 の「デリゲーションポーカー」という手法では、こうした委譲のレベルをチームで対話しながら決めていきます。大事なのは、今どのレベルなのかをリーダーとメンバーの間で明示的に合わせておくことです。
うまくいかない委譲の多くは、能力の不足ではなく、期待値のズレから起きます。リーダーは「任せたつもり」、メンバーは「相談すべきだと思っていた」。この状態で結果が出ないと、リーダーは「やっぱり任せられない」と結論づけてしまいます。もったいない話です。
そして、この段階は領域ごとに違って構いません。設計は「決めて事後共有」、採用は「一緒に話して決める」といった具合に、領域ごとにレベルを決めていくと現実的です。
任せた後にリーダーがやること
私が経験が少ないメンバーに任せる際に心がけていたのは、謙虚な姿勢と献身的なサポートでした。
あまり出しゃばらず、メンバーの意思や行動を尊重し、必要に応じてお手本となるものを共有したり、得意な人をサポートにつけるようにしました。慣れるまでは、毎日15分程度でも良いので質問に答えたり壁打ちの相手になる時間を設けるのも効果的でした。
ここでのポイントは、「見張る」のではなく「支える」ということです。同じ「毎日確認する」でも、進捗を取り立てにいくのか、詰まっているところを一緒にほどきにいくのかで、メンバーの受け取り方は正反対になります。
もう一つ大事なのは、失敗したときの責任の所在です。任せた結果うまくいかなかったとき、その責任はリーダーにあります。ここが揺らぐと、メンバーは二度と大きな判断を引き受けてくれません。結果はチームのもの、責任はリーダーのもの。この非対称性が、委譲を成立させます。
「尊重」とは、自分と違う結論を受け入れること
このステップのタイトルには「尊重」という言葉が入っています。私はここが本丸だと思っています。
任せると、自分とは違うやり方、違う結論が出てきます。そのとき、つい口を出したくなります。自分のほうが経験があるし、たぶん自分のやり方のほうが速い。実際そうかもしれません。
ただ、そこで口を出した瞬間に、委譲はなかったことになります。メンバーは「結局リーダーが決めるんだ」と学習し、次からは判断を持ってこなくなります。
決めていいと言った範囲の中で出てきた結論は、自分の好みと違っても尊重する。これは、我慢ではなく投資です。その1でお伝えした「コーチングマインド」、つまり課題を解決する鍵はチーム自身が持っていると心から信じられるかどうかが、ここで試されます。
もちろん、目的から外れている場合や、決めた範囲を超える判断の場合は、対話が必要です。そのときも「違う」と否定するのではなく、「どういう理由でそう考えたのか」を聞くところから始めてください。だいたいの場合、こちらが見えていなかった現場の事情が出てきます。
次世代リーダーは「任された経験」からしか育たない
権限委譲は、目の前の効率化の話であると同時に、育成の話でもあります。
リーダーシップは、研修や本だけでは身につきません。自分で決めて、その結果を引き受けて、うまくいったり失敗したりする経験の中でしか育ちません。つまり、リーダーが判断を手放さない限り、そのチームから次のリーダーは出てこないということです。
そう考えると、権限委譲はリーダーが自分の仕事を減らすための手段ではなく、チームの未来をつくるための仕事そのものだと言えます。
寂しさは、正しい方向に進んでいる証拠
その2の最後にも書きましたが、委譲が進むと、だんだん自分に対する感謝の声が少なくなっていきます。代わりに、メンバーに対する感謝の声が増えていきます。
これは少し寂しいものです。ただ、これこそが自分が正しい方向に進んでいる証拠です。
寂しい気持ちはグッと飲み込んで、精一杯メンバーを祝福してあげてください。それが段々とメンバーの自信に変わっていきます。そして、その自信こそが「自走」の燃料になります。
次回はいよいよ最終回、「テクノロジーの積極活用とコラボレーションの促進」です。ここまでの土台があるチームが、いまのテクノロジーを手にしたときに何が起きるのかをお話しします。
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